深呼吸、深呼吸

 文字通りの菜種梅雨を越え、さわやかな青空に桜の花びらが色鮮やかに浮かんでいる。いよいよ新しい出会いの幕開けだ。

 私たちのチームには支えてくださる方々が多い。その中でもNPO法人アルファバドミントンネットワークは最大の支援団体である。このNPO法人の会員はほとんどが西武台千葉高校バドミントン部出身のOB、OGである。でもその組織の中核にも会員の中にもOB、OGばかりでなく外部、第三者の方々も加わり、より多角的な視点で活動を支えている。

 そもそもOB会を立ち上げようという声は20年以上前からあり、何度か試みられたが、当事者たちは、仕事、家庭、等々で人生の最も忙しい時期でもあり、お金のやり取りや組織そのものの運営をスムーズに、そして正確に行うのはことは大変だろうと予想がついた。

 そこで金銭面の流れはクリアにし、第三者の視点を入れながらしっかりとした法人格を備えた組織にするために「特定非営利活動法人」であるNPOという形式をとることにした。これは事務的な狙いでもあるが、私たちはその心臓部である組織の理念や方針をさらに安定させ、目指す目標を高く掲げたかった。

 それはまず、部活動を続けて「勝つこと」にとらわれすぎると、【閉鎖的】になっていくという現実的な問題を克服したかったからだ。例えば『〇〇〇なんてしてたら勝てない』『□□□って何のメリットあるの?』という問いに応えるために、あえて〇〇〇や□□□のようなバドミントン以外の体験をしてほしいと願ったのだ。さらに言えば、長年バドミントンあるいはスポーツの世界を観てきて、勝ち負けばかりにこだわった生き方が、長く続く人生を「よく生きる」ようには見れない場面に少なからず遭遇してきた個人的な感想から、【オープンマインドで】できる限り多くの世界や人々との【交流】を大切にしたいと思った。

 今、法人も創立14年を迎え会員も増え現役選手たちを直接的、間接的に支え、交流の場も地元地域から全国、世界各地へと輪を広げられるようになった。そうした法人の活動や、選手たちの活躍の様子はSNSや会報(【ABNニューズレター】年3回作成、発送)でお伝えしている。最新版のニューズレターは36号になった。そして桜の花が咲き始めたその日にその発送作業を行った。

 数号前から、支援されている現役選手から会員の皆様に簡単な手紙を添えたいという役員からの提案を実行している。

 今回もそれを行った。大きな部屋に広がり、担当する数人の会員に向けて手紙を書く作業が始まった。しかし、その会員さん(主にOB、OG、そして関係のあらゆる方々)がどのような人かは選手にはほとんどわからない。加えて【手紙を書く】という経験も少なく、その形式や文そのものを書くのもままならない・・・。そんな時は「聞いてください!」と言ってある。すると次から次へと「この人どんな人?」というクエスチョンが寄せられる。

 「う~ん、この人は『伝説の選手』なんだよ・・・」とか「あの時はね・・・」という昔話しをしながら、そして時には「この方は神様みたいな方だから書くとき気を付けて!」などという話も出てくる。そんな話をメモを取りながら聞き、自分の席に戻って手紙に向き合う。「きっとこんな人だったんだろうなぁ」と想像を膨らませ、一文字一文字ていねいに(本人は丁寧だと思っています)、書いてはフッと息を吐き、時には「この手紙はどうやって終わらせますか?」などというテクニックを聞き出しながら慣れない作業に集中している。「そうか、『手紙』を書くことさえ今ではまれなことなんだ、そういう時代なんだ・・・」と私たちが気づく。

 やっと書き終えて、封筒に一式をそっと入れ、きちっと封をする。一つ一つが作業、所作が大人への階段を一段ずつ上るように続けていた。

 年に2回でも、高校生活で数回でもこのような体験はしたほうがいいと思う。中には「練習時間を割いてまで・・・」と残念な思いを持つ選手や保護者もいると思うが、そこはひとつ、【長い時間】という広い視野で選手の成長を見守ってほしい。

 人生には何ひとつ無駄なものはない(遠藤周作)

 今日が入学式、そして明日が始業式。大会も近くなってきた。忙しくなるがそんな時こそ、焦らずに、姿勢を正し、深呼吸、深呼吸!

手紙を書いている間じゅう「相手を思う」。そして自分を見つめる。