だるまさん
紅葉がピークを過ぎ冬支度に入る。その冬の京都を舞台にした全国高校駅伝、通称「都大路」に西武台千葉高校長距離チームが出場することになった!長い長い冬を越えようやく手にした春の切符である。米作りなどで一緒に過ごす間柄なので感動は一入だった。もちろん弾丸ながら現地に行き応援をすることにしている。そしてついでに暮れの京都を味わうつもりだ。
当方のチームも男女そろって新人戦県大会を制し、12月の関東選抜、3月に金沢で行われる全国高校選抜に出場することになった。男子こそカムバック西武台で話題を呼んだが、女子チームは連続20年近くになるので「また西武台か・・・」的なシラケ感が漂う。そんなことはつゆとも感じず前を向き続ける選手の瞳を見るにつけ不憫でならない。
夏の佐賀インターハイが終わるやいなやチームは一新した。さて、だれがキャプテンになるのだろう。おそらくT選手以外ならばそれなりに上手にこなすことは容易に想像がついた。しかし、周囲の選手や卒業生からもT選手へのリクエストが届いた。なぜだろう?一番苦手そうで、本人もきついだろうと思っていたので聞いてみた。「是非やらせてください!」と絶対に無理な役を演じているとわかる顔で返答した。彼女は厳しい受け答えの時は「腹話術の人形の口元」になるからわかる。
案の定、出だしから苦しんでいた。どの代のキャプテンもそうだが、圧倒的なリーダーシップは周囲から敬遠されるから控えめ、控えめに進める。Tもそうだったのだろうが、控えめすぎて存在すら危うい。どうもぎこちない。それぞれの選手の技量も例年に比べるとはっきりと劣る。県内を抜けるのもままならない。空中分解か・・・、と周囲を心配させた。
熟慮に熟慮を重ねてTがとった新人戦対策最終手段は、コミュニティーセンターのお座敷で女子チームだけの「食事会」だった。相方のこれまたTの家族がやっているお弁当屋さんから上等な料理をいただき、女子高生が畳の部屋で食事会・・・、地味すぎる。だけど聞こえてこないだろうか?彼女らの弾むような笑い声、そして目に浮かばないだろうか満面の笑みが!
県大会で優勝をした日に、その後追い打ちをするようにT選手がとった秘策を知らされた。名付けて『だるまさん転ばないヨ作戦」だ。T選手一家総出で女子選手全員分のだるまさん人形を作って渡したのだ、と。きれいに、そして丁寧に縫い込まれただるまの色や表情は全員違っている。「気」が込められているようだった。
毎朝やっている通称【早練(はやれん:トップ選手の補習)】も地味だ。何か踊りながらお祈りをしているかのようにコートに立っている。彼女らはこれからも地味だろう。バドミントンに一番大切な丁寧に、そして継続して地味に取り組む練習ができるようになった。T選手も変わった。 「学ぶということは、変わるということ」と教育哲学者である林竹二氏は言っている。全員が「学んでいる」のだろう。これからもわずかな成長を大切に生きていけると思う。
すべてのチームにはそれぞれのチーム事情があり、数え切れないほどの人生劇場がある。あっさり勝ったように受け止められている選手たちでも、それぞれの困難を脇で見ている私にとってはそれが奥深いドラマになっている。吉本の【新喜劇】や「寅さん」でおなじみの【男はつらいよ】シリーズなどは、毎度毎度同じような予定調和を繰り返す。同じことをやっているから簡単そうだが、毎回毎回違った苦労や困難の上に成り立っていることを思えばその労苦と技術水準の高さに圧倒される。私たちもすぐには結果がでないものの、定期的に成長を確認する作業を繰り返しているが、わずかでも成長した姿に接するとき、選手らのそこまでの道程を素直に祝い感謝したいと願っている。
このところT選手の後ろ姿に自信が見えてきた。その自信が満ちあふれる日を待ち望む。今日は「秋の羽祭り」だ。