ラケット青年団

 空が(雲が)高くなったなぁ、と上を向くとキンモクセイの香りがする。どこからだろうと今度は周りをキョロキョロしていた。いい季節だ。国体で栃木県の北部に行くと、那須おろしに吹かれ、急に冬に近づいた。

 まさか、私が・・・、と思っていたことが起きた。その、いわゆる「韓ドラ」を見てしまった。というか全部夢中になって見た。世では「はまった」と言われているようだが、ずばり私もはまった。

 ただ、パラシュートの兵隊さんでも、男女のアバンチュールでもない作品で、『ラケット少年団』というバドミントンものだった。

 早くも「な~んだ・・・」との声が聞こえそうだが、私としては(つまり個人の感想ですが)見てよかった。そしてこの年齢になって初めて知るような様々なバドミントン界の側面を、自身の経験と重ね合わせたりして味わった。

 舞台は韓国の田舎町で、登場するのは男女中学生バドミントン選手とその指導者、そして学校や街の人々、さらにバドミントン協会の面々だ。

 見てよかったのは3つ。一つ目はバドミントンのエンターテイメント化について考えたこと。韓国でもやはりマイナー競技で、野球などの競技とは比べ物にならないさみしい扱いの中、それでもバドミントンの面白さ、奥深さを知ってもらいたいという願いを作品を通じて感じとった。例えばカメラアングルやプレー以外の視点へのカットバック、さらに韓国ドラマでは定番の「脈絡のなさそうな複数のストーリーラインが終盤で実を結ぶ手法」なども面白かった。また、これは気になって考えたのだが、少年たちのジャンピングスマッシュ&ノータッチエースできまるシーンがたびたび出てくる。つまりこのプレーがバドミントンを象徴した絵であり人気のツボなのだろう。しかし実際のバドミントンではそう簡単にジャンピングスマッシュで決まるわけではない。むしろ拾われて拾われて長々続くラリーが最後あっけない「凡ミス」で終わることのほうが多い。野球やサッカーなどは【ホームラン】とか【ゴール】で大きく流れが変わり、応援する側としてはわかりやすい。しかしバドミントンは前述の通り「凡ミス」シーンばかりなのでイマイチ心がさえない。このこともメジャースポーツへのブレーキになっているのかもしれない。

 二つ目は、ずばり子供たち(選手たち)の若さ故の一途さと健気さだった。もちろん頂点を目指すサクセスストーリーには違いないが、「勝ち負け以外のスポーツの持つ大切なもの」を随所にちりばめてあった。ドラマだからわざとらしさ、予測可能な展開もあったことは否めないが、総じて選手たちの成長をバドミントンを通して味わえた。その中でも「仲間つくり」の大切さが強調されていいたことにも共感を覚えた。

 三つめ、この作品は指導者やおとなに観てほしいと感じたことだ。随所に旧態依然とした劣悪な指導現場や人間関係、そして大人たちが胡坐(あぐら)をかいている社会システムへの警笛が描かれている。ネタバレになってしまうが、一人のダメコーチが選手たちや名伯楽の指導者によって立派な指導者、優秀なコーチに成長する筋がある。私自身もこれまでの経験や考え方とすり合わせながら鑑賞したが、選手や子供から教わることなどはいくらでもある。ごく当たり前なことではあるが、それを撥ね退けてしまう「これまでの指導者」と、上手に学び、受け入れる「これからの指導者」が描かれていた。そして私のモットーでもある「できるまで付き合う」姿勢も確認できたことがうれしかった。

 たかがドラマだろう、作り話だろう、と思っても考えても、もしかしたら事実より真実だった気がする。

 国体のコーチ席に座りながらこのドラマを思い出してしまった。目の前の「ラケット青年団」のプレーと熱気にグッときた。そして「この年になっても初めてのことなんか山のようにあるんだなぁ」とつくづく感じた。『老いて初心忘るべからず』という言葉と一緒に、那須おろしの風に乗って野田に帰ってきた。

 一回観てみなょ。やめらんないから。

お疲れさん!